はじまりは、雪のない道の駅から
その日は、冬らしい冷たい空気だったけれど、
待ち合わせの道の駅には、まだ雪はなかった。
ゲストとして来てくれる女性は、車で向かっている。
事前に何度もメールを重ねた。
雪道の運転は大丈夫か。
どんな服装で来る予定か。
向かう先は群馬の山あいにある法師温泉。
山に近づけば雪があるかもしれない。
きっと一番緊張しているのは、ゲストとして来てくれる彼女だろう。
そう思いながらも、私たちも少し落ち着かなかった。
初対面というのは、やっぱり少しだけ胸がざわつく。
服装を伝え合っていたので、すぐにお互いを見つけることができた。
軽く挨拶をして、仲間の車に乗り込む。
法師温泉へ向かう道中、
山に近づくにつれて、景色が白く変わっていった。
そのころには、彼女の表情も少しずつやわらいでいた。
事前に聞いていた想い
参加前、彼女はこんなことを話してくれていた。
「ひとりのときは、自分の好きなように過ごせる。でも、人と一緒にいると、知らず知らず合わせすぎてしまうんです」
だから今回は、
“自分の今の感覚や希望を、ちゃんと伝えてみたい”と。
その言葉は、とても静かで、でも芯があった。
女性が多い、珍しい混浴の日
法師温泉の混浴はタオルの使用ができない。女性にとっては、ほんの少し勇気のいる場所でもある。
それでもその日は、不思議と身構える必要がなかった。
女性用脱衣所に入ると、
20代から30代に見える4人組の女性がちょうど服を脱いでいるところだった。
法師温泉の混浴で、複数の女性に出会うのは珍しい。
普段は1人か2人、多くてもそれくらいだ。
「今日は女性が多いですね。これなら入りやすいかもしれませんね」
そう話しながら引き戸を開けると、さらに驚いた。
浴場には、カップルや女性グループがいて、
その日は女性のほうが男性より多かった。
混浴温泉で女性が多数派になる光景は、なかなか見られない。
人数のバランスが変わるだけで、空気はこんなにも違う。
女性たちは堂々としていて、
少数派になった男性のほうが、どこか静かに湯を楽しんでいるようだった。
いつもは女性脱衣所の方を向いて待つように入っている男性もいるけれど、その日は誰もこちらを見ていない。
みんなが、それぞれに湯を味わっている。
女性の笑い声がやわらかく響き、
いつもは静まり返る浴場が、自然な賑わいに包まれていた。
混浴温泉が「安心できる場所」になる条件のひとつは、こうした空気なのかもしれない、と感じた。
湯と雪のあいだで
うだつから雪が吹き込む。
下から湧く湯。
上から舞い落ちる雪。
そのあいだに、私たちの身体がある。
並んで目を閉じる。
彼女の表情はすっかりやわらいで
法師温泉をあとにするころには、
仲間の話に声を出して爆笑していた。
遠慮のない笑いだった。
「行きたいです」と言えた瞬間
途中、私は問いかけた。
「行ってみますか?」
ほんの小さな選択。
彼女は少し考えて、
はっきりと言った。
「行きたいです」
迷いのない声だった。
事前に聞いていた“合わせすぎてしまう自分”とは違う、自分の内側から出てきた言葉。
そして、その言葉を口にできたこと自体が嬉しい、という笑顔。
あの笑顔は、雪景色よりも印象に残っている。
だから、この場を続けたい
混浴温泉は、ただ裸で湯に浸かる場所ではない。
誰かと一緒にいながら、
ちゃんと自分でいる練習ができる場所。
合わせることもやさしさだけれど、
自分の感覚を伝えることも、やさしさだ。
その日の彼女は、
少しだけ自分の中心に戻ったように見えた。
人がほどけていく瞬間に立ち会えること。
自分の希望を、恐れずに口にできる空気を育てること。
だから私は、
このClub Inner Spaという場を続けたい。
混浴温泉を、
女性にとっても安心できる場所として、
静かに、でも確かに守っていきたい。
混浴温泉が気になるけれど、不安もある。
そんな女性へ向けて、関東の混浴温泉をまとめた記事もあります。
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